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窮すれば通ずる話

かって私が働いていたコロラドの牧場はロッキー山脈の中、標高3000メートル近くの高原にあった。富士山だと何合目位かな?観光牧場ゆえに、風光明媚なことこの上なかったがシーズンオフ、特に真冬の厳しさは半端なものではなかった。寒い時は零下30度にもなる。吹雪いたらもう一寸先さえ見えない程大自然との闘いを余儀なくされる所でもあった。

他の従業員の殆どは大学生であったからいわば季節労働者、私は行く所もなかったから冬でもそこに住まざるを得なかった。オーナー一家は冬になったら暖かいアリゾナの別荘に移っていく。時には私独りで大きな牧場を維持管理しなければならなかった。毎冬なんとか過ごしてきたものの、3年目に異変が起こった。親日家のオーナーもかなりの歳になったので牧場を売り、引退したのである。新しいオーナーは40前後のやり手ビジネスマンだった。再婚した相手の家が資産家だったので、そのお陰もあり若くしてオーナーにおさまった。最初から気に食わなかったがそんなことも言っておれなかった。(ちなみに我がじゃじゃ馬はその彼と喧嘩して首にされた。)

今迄の温厚な老夫婦と異なって、彼らは最初から儲けが主体となった牧場経営を目指したから、色々な分野での経費カットを行った。こともあろうに冬場はシーズンオフということで私の部屋の暖房まで切られてしまったのである。(勿論彼らは冬の間はテキサスのこれまた別荘に移って行く。)私は所謂カウボーイが寝起きするバンクハウスというかっての奴隷達が住んでいたより若干ましな建物に住んでいた。でも隙間風が入って夏は快適だが冬は暖を取るものがなければ住めたものではなかった。就寝中に吹雪くと、翌朝は顔の周りに雪が積もっていることもあった。灯油を買うにも十分な金はなかったから我慢した。その代わり強いウィスキーだけは絶やさずにいた。中から身体を暖めるには最高である。そんな調子だからシャワーも温水は出てこない、従って浮浪者同然で下手をしたら一ヶ月着のみ着のまま、最後は近くのスキー場へ行ってシャワーを浴びてくるしかなかったのである。そんな調子で兎も角その冬は越したものの、次の冬は何とかせねばと色々思案した。

ある日、野良猫がやって来た。私の頭のコンピューターが素早く稼動した。猫は暖かいから冬場の暖を取るにはカイロよりましだなということで早速牧場の残飯をやり始めたら、そのうち私の部屋へ居ついてしまった。初秋にはもう寒くなるので猫を抱いて寝ると小さな湯たんぽみたいで暖かかった。しかし零下30度になったら焼け石に水である。そうこうしているうちに、運良く野良犬を見つけたので、これもっけの幸いとまたエサをやり始めた。犬は三日もエサやれば、飼い主に忠義を尽くす。(人間など3年面倒をみても飼い主の手を噛むことがあるから、忠義という面ではワンちゃんのレベルの方が遥かに高い。)そして猫より遥かに大きな湯たんぽになってくれる可能性があった。

そして4畳半位の狭い部屋で私、犬、猫の生活が始まったのである。よく言われるのが犬猿の仲であるが、犬猫の仲も決していいものではない。だから夜寝る時はどちらかが私と一緒にベッドに寝るのだが添い寝が叶わなかった一方は床に寝る始末だった。(勿論、人間さんの世界でこんなことをしたら血の雨が降るだろう。)しかし暖を取る為の相乗効果を考えたら何とか3人?が一緒に寝ることを考えねばならなかった。そこで私は一計を案じて実力行使に出たのである。ある夜のこと。両手で犬と猫の首を捉え、強引にキスをさせた。何が起こったか想像に難くないだろう。双方が唸り声を上げ爪で引っかき合いを始めた。勿論私は最大の被害者、顔や腕に無数の引っかき傷を作られたのである。しかし、乗りかかった船なので私も止めなかった。それからは毎晩その繰り返しで、三人?は嫌ほど小さな修羅場を経験したのである。

それから10日位たっただろうか?外から帰ってきたら何と犬と猫が一緒になってベッドの上で寝くるまっているではないか?! やったぜ、ベイビー!私が歓喜したのは言うまでもないだろう。勿論ウイスキーと寝袋は毎日欠かさなかったけど、初めて三人?で寝ることの出来たその夜の暖かさは筆舌に尽くし難かった。何か日本的に言うと3Pらしいが、そんな邪念よりも人間窮すれば通ずるんだなあということの再認識の方が嬉しかった。これまた、嘘のような本当の話なのだが、まだ続きがある。

彼らのお陰で以前よりも少しばかりましな冬を過ごせた。しかし平和な三人?の生活も長くは続かなかった。春、例のじゃじゃ馬がやってきた。暫く経って勿論彼らに彼女を紹介した。頭を撫でてもらい二人?ともご機嫌だった。その時点では何も起こらなかった。だがしかし。

ある晩、彼女が初めて泊まっていった。シングルベッドだったから、人間さん二人で精一杯。他のもう二人?が寝れる余地は全然なかったのである。床に座った彼らは一緒に寝るどころか、離れてジッと私達を見続けていた。何が起こっているんだろうと言う顔をしていた。翌朝早く彼女は部屋を出て行ったが、彼らはベッドに跳び上がって来なかった。アイアムソーリーと外人並みに肩をすくめて一応謝ってはみたが。。。。その日の仕事を終え部屋に帰って来た時に彼らが再びベッドの上で寝転がっていたのでホッとした。しかしそれ以後は三人?で寝ても何故か夫々がよそよそしい感じがしたのは、私だけだったのだろうか ?

牧場を去る時に彼らを獣医の友達に引き取ってもらうことにした。これから何処へ行くか分らない流れ者と一緒では彼らもたまったものではないだろう。彼らを抱擁しながら別れの接吻をした時、何故か目頭の辺りで熱いものがこぼれそうになった。

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