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病気になるのも命懸け

話のついでに少しばかり日米医療事情に触れたい。昨年は女房の癌治療の為本当によく病院へ通った。こちらはどこの病院や医者へ行っても全て予約制なので、三時間待って三分治療のようなことはないが、治療費の高さは半端ではない。貧乏人は死ねということかと叫びたくなる。健康な時は、米国は自由で何でも安いし便利で楽しいことばかりと思っていた。しかし、肉体的経済的弱者には優しい国とは決して言えないのである。

ご存知のようにアメリカは先進国で唯一国民皆保険のない国。健康保険は公共サービスではなく主に民間の保険会社が受け持っている。しかし65歳以上の高齢者と身体障害者、低所得者向けにだけは公的な保険がある。それにしても医療保険未加入者は5000万人にも達しているのである。( 直近の情報ではこの未曾有の経済危機による不況で未加入者がうなぎ登り、若年層に至っては既に三分の一以上が保険料が払えず未加入であると聞く。)

また保険に加入しているにもかかわらず別の問題がある。日本でも生命保険の未払いが大問題になっているけど、こちらの保険会社はとにかく考え付く限りの理由をつけて医療費を払わない。それによって空前の利益を上げる営利主義一辺倒の医療保険会社や製薬会社と、それに癒着した政治家というけしからん構図がアメリカの恐ろしい医療事情ともなっている。保険料は保険会社が自由に設定するから毎年値上がりし、さらに持病があると医療保険に加入出来ないか、加入出来ても保険料が高くなる。もう踏んだり蹴ったり、そして驚くべきは保険に加入していても、高額な医療費を請求され個人破産に追い込まれることが多々あるというのも実情である。

女房の場合は今まで高い保険料を払い続けてきていたのである程度の医療費は保険でカバーしてくれたが、それにしても自己負担額が馬鹿にならない。従って私生活も適当にリストラを強いられている。癌の治療費は高いとは言え、延命の為にはそんなことも言ってはおられない。化学治療から始まって乳房の全摘出手術、放射線治療と一連のものでいくら位かかるのか?ちなみに、日本ではその額の見当さえもつかないが手元に送られた請求書を合計してみると。。。。。軽く4000万円を超えてしまう。人の命に値段をつけることなど天に唾吐く行為に等しいと思っているがそれにしても、全く恐ろしい数字である。何処かで数字のつじつまが合っていないような気がする。気の遠くなるような額のお金が我々の知らないところであっちこっち動いているのだろう。

治療費の支払いを渋る保険会社が入院に対して寛大な訳がない。女房の手術は4時間程かかったが入院させてくれたのは一泊だけ、翌日にはハイお大事にねと追い出された。看護婦曰く、あなたは一泊出来ただけ運がいいのよ、普通は日帰りだってさ!!!聞いてみると理由は二つ。一つは勿論保険会社からの入院費が高いから早く追い出せとのプレッシャー。ったく、こちとら犬猫じゃあるまいし、少しは人間らしく扱ってくれてもバチは当たらんぜよ、と喚いてみても一方通行の会話で空しくなるばかり。もう一つは人間は自分で治癒能力を持っているから、下手に病院で過保護にするよりも治りが早い、と来た。そう言えば30余年前のよく似た出来事を思い出す。

私は子供の頃中耳炎を患いその後遺症で内耳まで骨が削られほっておくと脳までやられるということで手術を受けた。初めは日本で、そして十分でなかった様なので全く同じ手術をアメリカでも行った。両方ともかかった時間は5時間前後。日本では術後一ヶ月入院手厚く看病してもらった。それがアメリカでは一晩病院に置いてくれただけで翌日追い出された。麻酔も切れヒイヒイ喚いているにもかかわらずだ。それから一週間自宅で悶々としたことを覚えている。それ以来もうアメリカでは絶対病気になんかなるもんか、と誓った。親からもらった丈夫な身体にも感謝しなければならないが、ホント無病息災でいままでやってこれたのは、もう病院には行きたくないとい強い拒絶反応のお陰かも知れない。

こう言ったお国柄だから、人間ドックのシステムなどある筈がない。予防医療と言う点では日本の方が遥かに進んでいる様な気がする。日本の人間ドックが繁盛している理由は民間会社の健康保険組合が従業員に対して年一回は会社負担で定期健康診断を受けさせることにある。これは会社が社員の健康管理までタッチして常に健康で永続的な労働力を確保しようとする生涯雇用を基本にしてきたからだと思う。アメリカで国民皆保険も人間ドックも存在しないのは、もともと終身雇用の原則がないためだと言えるだろう。

とは言えオバマ新大統領もこの医療及び保険業界のパズルにメスを入れ、国民皆保険制度の確立に本腰を入れて取り組むようなので期待している。膨大なエネルギーが必要となる一大プロジェクトであるが、もう避けては通れない。世界で最も進んだ医学のレベルを誇っている国で、その国民のうち5000万とも6000万とも言われる人達がその恩恵を受けることが出来ない現実を直視すると、何かが間違っている。この国の医療制度に大きな欠陥があるのは自明の理であり、ひいてはそれが政治の責任であることは明白であろう。

このような医療事情の下で女房は乳癌の摘出手術をしたのだが、お陰様で順調に回復しつつある。多くの親戚友人知人の方々から激励を受け、それが癌と闘って来た彼女の大きな支えとなっている。夫婦共々改めて人の心の温かさや思いやりの、有り難さや尊さを噛みしめている。

20110301-5

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