1. TOP
  2. 牧場人生(2)
  3. 戦い済んで日が暮れて

戦い済んで日が暮れて

5,6,7月は子牛が産まれる月である。この季節になると私の日課は朝一番で牛の数を数えることから始まる。特に子牛の数が昨日より増えているような感じがすると早速双眼鏡で頭数を数える。明らかに1頭か2頭増えていると前夜のうちに生まれたということになり、朝食後女房と二人でトラックに乗り、群れの傍まで行って確認する。そして同時に新しく生まれた子牛の母親の認定作業もついでにすることになる。

それらを記録することによって、子牛を産まない母牛を特定し冬場になる前に彼らを売ってしまうのである。いわゆる草ばかりたくさん食って働かない雌牛は、即リストラ対象となるから厳しいのは人間社会だけではない。今年は20頭の雌牛の殆どが妊娠したようで(雄牛はよく頑張ったと思う。いや一生懸命与えられた仕事をしなければ彼とて来春はリストラ要員となる。)つい数日前13頭目の子牛が生まれた。

ある夜久し振りに遠くでコヨーテの合唱が聞こえた。大方また牧場の敷地の果てにある森の中で獲物を得て祝杯を挙げているんだろうと思った。よくあることなので、あまり気にも留めなかった。夜が明けた。また暑い一日が始まると思うと気もだれるが、今朝は嫌な予感がした。牧場をサッと見渡すと200m位先の所に小さな黒い塊がありその周囲に5-6匹のコヨーテが群がっていた。双眼鏡で見ると子牛の耳のようなものが見えたからハッと思った。「やられたな?!畜生!!」

125160053079216417804

カッと頭に血が昇り咄嗟に寝室に走り3発の弾丸を散弾銃に装填し表にでた。チョッと離れているからいくら精巧なベレッタの散弾銃でも無理かなと思ったがコヨーテめがけて3連発をブッ放した。彼らはばらばらになって一目散で逃げて行った。何時もは一頭だけのんびり遠くを横切っていくのが普通でそんな時のコヨーテは大人しく何もしない。だから見つけると威嚇射撃だけにする。でも今日は違った。集団で我が子牛を殺害しそれを食い始めたのである。絶対に許せない!!

それから二時間くらいして再び3頭現れた。その間10匹前後のハゲタカが肉漁りをしていたがそれでもまだ半分位残っていた。今度はレミントンのライフル銃を持ち出した。射程距離は7-800m位、だから200mは簡単に思える距離である。外れると弾丸は5キロ先位まで飛ぶ。ライフルは精巧であり射程距離も長くパワフルだから取り扱いは結構面倒だが、至近距離用のピストルや大きく広い的用の散弾銃より命中率は遥かに高い。

ライフルは所謂“一弾一殺”だから3連発用とはいえ一発の弾丸を装填した。遠く離れているから構えてもコヨーテ達には判らなかった。おもむろにスコープを覗いた。焦点を合わせ一頭を十字線の真ん中に置いた。手から汗が滲み出て来た。こんなにマジで銃を手にとって獲物に狙いを定めたのは何年振りのことだろうか?!ライフルの重さから何回もスコープを覗き直し、今度はフェンスに銃身を固定させた。今度こそ、そう思った瞬間引き金を引いてしまった。物凄い爆発音がしたが、同時に3匹のコヨーテは全速力で逃げて行った。撃った瞬間の銃の反動で的を外してしまったのである。練習不足という言葉が脳裏をよぎった。

もう来ないだろうと思ったがほぼ一日中現場を見ながら張り付いた。でも夕方近く今度は一頭だけで現れた。今回は私の準備は出来ていた。同じ動作の繰り返しだったが前回と異なったのは辛抱強くコヨーテが横向きになるまで待った。その方が正面からよりは遥かに的が大きく絞り易かったからである。ライフルのスコープは本当に良く見える。満足そうに子牛の肉を食っている野郎が無性に腹立たしくなってきた。今度こそイワシテやる!

大きく息を吸い込み止めた。照準はピッタリ。引き金を引く指がチョッと震えたようだったが、躊躇しなかった。耳をつんざくような音がしたと思ったらコヨーテが飛んだような気がした。今度は手ごたえがあった。でも数秒後コヨーテは起き上がりビッコを引きながら一目散で逃げ出した。前足に命中したことは確かであった。これでもう暫くは現れないだろう。

早速友達のカウボーイにことの顛末を話したら、「以前言ったことを忘れたんか?コヨーテ対策にはロバかラバを飼えって!」聞けば彼らはコヨーテが近ずいてきたらキック力抜群の後ろ足で彼らを蹴散らすそうである。そして「英語のドンキー(ロバ)の意味を知ってるか? アホでウスノロで頑固者ってことだ。でもお前のライフルよりはコヨーテ対策になると思うけどなあ?」

今回は素直に彼の言うことを聞くことにした。早速明日、ロバ一頭を持ってきてくれる事になった。やれやれ。コヨーテ軍団との長い戦いがすんで日が暮れた。久し振りに緊張感があり平和で平凡で静かな日々の中では充実した一日だったのではなかろうか?!