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妻からの自立

各々の夫婦によってタイミングの違いはあれ、いずれはどちらかが先に逝き、どちらかが残される、これは世の常とて何人も避けて通ることは出来まい。願わくば「お前100まで、わしゃ99迄」と言うのが理想的だがそのような人生の終焉を迎えられる夫婦はトータルからすればほんの数パーセントしかないだろう。しかし大部分の夫婦は期間の長短こそあれ、何らかの形で人生の黄昏時を楽しむことが出来る。現役を引退しサンデー毎日、子供達もみんな片付き親としての役割も卒業、好きな趣味や旅行三昧、同好の士との交流や昔の仲間達との旧交の温め等々全てが悠々自適、時間も空間もかってこれほど自由になる時があっただろうか?!そんな人生の佳境を迎える中で、もっとも素晴らしいことは連れ合いと共にゆっくり年老いていくのを楽しむことであろう。

私達もさてこれからゆっくり楽しみながら人生の下り坂を降りて行こうと思ったのだが、残念ながら昨年11月女房に先立たれてしまった。3年余りの乳癌との闘いの末であったのである程度の覚悟はしていたが、願わくばもう少し二人で楽しみたかったと思うがそれも私達に与えられた運命、致し方あるまい。私は常々、『ものは考えようで心の有り様はどのようにでもなる』と言うことである。人の一生で大切なのは如何に長く生きたかと言うことではなく、如何に充実した人生を送ったか、如何に人生を楽しんだか、と言うことだと思う。そう言った観点からすると、女房の68年の人生はまこと素晴らしいものであったし、彼女は十二分に人生をエンジョイしてあの世に旅立ったのである。だから、もう少し一緒に暮らしたかったと言う私の発想は欲が深いのかも知れない。

統計によると5組の夫婦がいればそのうち4組は夫の方が先立つ。女性の方が長生き、これはここアメリカでも似たような数字となっている。女性はしたたか、いややはり母は強しと言うことなのか?!そして残された夫のそれ以降の生存年齢は女性が残されたそれに比べて大分短いという数字が出ているのである。それには色々な理由が考えられる。

お一人様になってからの要諦は『健康、友達、お金』とよく言われる。この3点をうまく管理して行くことが出来れば老後の心配をしたり不安を抱いたりすることもなく楽しく余生を送り、その上長生き出来ると言うのが通説になりつつある。私達の年頃になると、『老病死』というのは避けられない現実となってくる、いや逆に積極的に向き合っていかなければならないと思う。何故ならそれから逃げようとしたって、無視しようとしたって、そう言ったものは日々着実に近ずいてくるからである。

上記3点の中で私は『健康』が最も大事なコントロールしなければならない項目であると思う。お一人様とは言え、二世帯住宅に住んでいるとか、娘や息子夫婦が近くにいるとか、高齢者養護施設に入っている様な人は対象にはならないかも知れない。それは誰かが面倒を見てくれるからである。確かにその面でのメリットは大いにあるのだが、同時に気をつけないと至れり尽くせりになってしまい逆にデメリットが発生してくる。自分で考え自分でやることが少なくなってくると、間違いなくボケの進行度合いは早まる。だから意図的にでも出来る限りのことは自分でやる、自分で出かけていく方が脳の活性化の為には遥かに健全である。

主婦業には最低限でも4つの大きな仕事がある。炊事、洗濯、掃除、買い物。これらはみんな『健康』に直結しているわけだが、中でも炊事が最も大仕事また大事であるのは間違いない。女性が後に残される場合はこれらのことに関してはいままでの延長線上のことだから問題ないとしても、男性が残され次の日からさあ主夫業(主婦業)をやりなさいと言われてもそんな簡単に出来るものではない。最近の若いカップルは夫婦分業と言うか家庭生活何でも一緒にやろうと言う風潮になってきているから、彼らの代になれば妻に先立たれた夫が路頭に迷うことはなかろう。

しかし問題は今の50代、60代の男性がそんな主婦業をスムーズにこなして行けるかどうかと言うことである。今の私はこの広い牧場での一人暮らしである。不便は承知でも敢えてこのようなライフスタイルを選んだのだから一切の愚痴や寂しさなど禁句である。完全なるお一人様としての日々の生活で友達とかお金に関しては何とかコントロール出来ているので、私は健康管理に関して次の点に留意をしている。

(1) 起床就寝を定刻ずける。朝は7時に愛犬が必ず起こしてくれる。夜は12時までに就寝。それから7時間、途中一度起きて用をたす以外はぐっすり眠る。歳を取ってくると朝は早く目が覚めるということはない。規則正しい生活を続けることは絶対に必要。
(2) 炊事は渡米以来ずっとやってきているし、また料理することも好きだから苦にならない。レパートリーも和洋折衷で50」種類以上出来るから栄養のバランスをとることの問題はない。女房が日本食を作ってくれなかったから必然的に自分で料理せざるを得ない。だからそれが災い?転じて福となっている。
(3) 掃除、洗濯、買い物は今までも時々女房を手助けしてきたから要領は分かっている。掃除がちょっと苦手だが、お客さんを出来るだけ多く招待することで常に家の内外を綺麗にしておくように習慣ずけている。
(4) 適度な運動も健康維持のために必要。近くの大学のジムへ2日に一度の割合で行き汗を流してくる。若い人達に囲まれてのエクササイズも元気がもらえるからプラス。
(5) お客を招待する時意外は寂しさを紛らわす為とか言ってのアルコールは一切なし。

以上を心がけていることで今のところ至極健康である。特にアルコールについては妻に先立たれた夫が陥りやすい典型的な罠なので晩酌なぞしないようにしている。もう飲みすぎても止めてくれる人はいない。健康を害するアル中は身を崩す。手っ取り早い寂しさからの逃避方法であるが故にこの誘惑から逃れるのは簡単ではないが自らを律しているのである。

日本にいたら私は間違いなく「フロ、メシ、ネル」の三言亭主になっていたことだろう。我々の年代、それが当たり前であったしまた受け入れられもした。しかしこのアメリカではそんなことは通用しなかったし、女房のお陰?で私は人間改造をしなければならなかった。夫婦生活は共同作業、まして気の強いアメリカのじゃじゃ馬が、何もしない亭主など許す筈はなかった。でも今思えばそのプロセスがあったからこそ、私は炊事洗濯掃除買い物等の主夫業としての妻からの自立が即可能であったのである。

これまた運命なのかも知れない。女房殿は自分が先に行くのを見越して、私にあれこれさせ自立出来るように仕向けていったのだろう。今ではそんな女房にとても感謝している。今までは彼女が作っていた料理も彼女がレシピを残して行ってくれたので全く同じ味の料理が出来るのも嬉しい。そしていつの日かそのレシピを息子夫婦にも教えてやろうと思っている。

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