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友あり遠方より来る

私の女房は、生前多くの人を愛し多くの人に愛された。そして、多くの人を支え、多くの人に支えられた。それは彼女の人となりがそうさせたのだと思うし、私はそんな彼女がとても可愛く好きだったし誇らしかった。人と接するのが好きだったから彼女の周りはいつも賑やかだった。だから私がつけた渾名の「パーティ気違い」というのも当たっている。彼女は人も動物も自然も好きだった。片や私はと言えば、動物と自然が好き、人はもう疲れたから時々でいい。現役の頃はビジネスで毎日何十人いや展示会や業界の集まりがあると何百人もの人と接してきた。もう十分である。

私は常々、人生はドラマであり自分はその中での主人公だと思っている。だから周囲の人達の言うことが気にならないしまた気にしない。だって主人公が何をしようが観客は文句を言えない。これをするな、あれは駄目、ではまるで檻の中にいる動物のよう。私は自分のことを何人にも侵されない心の自由を持った野生動物であり常にドラマの中の主人公と自認している。

しかし完全なる自由人というか自然派なんて言う難しいことを、定義ずけようなどと言う気持ちはさらさらない。牧場の奥深く入るとそこはもう人のいない別世界、何故か心が洗われる気がする、しかしその時に都会のキャバクラで若いオネエチャン達に囲まれて酔っ払って騒いでいる自分も登場してニタリとするのである。何かごっちゃ混ぜのような感じがするが、いつも一本通しているのは、心の自由。それは「明日のことは分からない、だから今生きていて本当に楽しいか?」と言うことをいつも考えている。そして無理なことはしないようにしている。分からないことはわからない、出来ないことは出来ないと思えば、常に心の自由は保たれるような気がする。

かと言って完全なる人嫌いではない。気のおけない連中とだったら、夜をあかして飲んで喋ってと言うエネルギーはまだまだ残っている。交友関係に効率性などと言うものを取り入れる気持ちなど毛頭ないが、残りの人生に限りがありそれが見えるようになってくると、もうどうでもいい連中とは付き合うのも億劫になってくるし、それ以上に時間の浪費である。そんな連中と一緒に時を過ごすくらいなら、一人でのんびりこの牧場で緩やかな時の流れを楽しんだ方が遥かにましだと思うのである。今までは仕事柄もありまた女房の交友関係が多岐に亘ったので広く浅くの交友が多かったが、これからはそんなことにあまり気を使う必要もない、狭く深く友をセレクトして中身の濃い交友関係を再構築していきたいと考えている。

女房は賑やかなのが好きだったから、これからも人を沢山集めてここでワイワイガヤガヤやることを望んでいる。それが彼女の遺志であるし、そうすることが彼女の供養にもなると思っている。だから私は日米の友人知人親戚隣人の多くに声をかけている。反応は上々でこの分なら、彼らの受け入れ準備や帰って行った後片ずけ等を考えると私も結構これから忙しくなるなあ、と言う予感がする。でも多くの友がこの牧場を訪ね楽しく過ごしてくれることを思えば、そんなことは全然気にもならない。ある人曰く、何か民宿とかペンションみたいな感じになるね、それもまた結構なこと。短期滞在者は別としても半月とか1ヶ月以上の滞在者には飲食代くらいシェアをしてもらえば彼らも変な遠慮や負担も感じずに快適に過ごせるだろうから、そんなことも考えている。

要はここで楽しくやりたいのである。今までも色々な友人知人親戚が訪ね滞在して行ったがほぼ全員がここでのひと時を大いにエンジョイして行ってくれた。特に日本から来るとここは非日常の世界であるが故に、彼らの楽しみ方は倍加した。テキサスの片田舎のここは観光地とは程遠い。勿論車で1時間も走れば人口700万のダラスに行ける。都会的刺激も欲しければ、そこへも案内するが、おしなべて牧場やこの田舎町を散策するだけで彼らは満足する。時間が止まるような感じの牧歌的雰囲気、大自然や動物達に囲まれたノンビリとした一日、夜は澄み渡った満天下の星空、無計画で何もしない贅沢と言うものもあるんだな、と言うことを発見して帰っていく。

日本の友人でのリピーターは多い。中にはもう3度もここを訪ねた猛者?もいる。彼はいまだ現役であちらこちら仕事で飛び回ってりるが、ここは充電するのに最高の場所らしい。何故かと聞くと、何もしない、何も考えない、というのが充電にはいいらしい。私も現役の頃はそんな感じだった。偶のバケーションは何処かのリゾートや国立公園や海辺で、それも一箇所滞在型で1週間から10日過ごす。その間は外界や下界とは完全に自分を隔離し、何も考えない、何もしない。そうすることで旅の終わりには不思議と精神的にも肉体的にも充電出来、再びやる気がみなぎって来たのを覚えている。この牧場もそんな英気を疲れた現代人に与えてくれることは間違いない。

今までも家族単位で3人~4人と揃って1週間くらい滞在して行くケースも多かった。まして大学の同期の連中などが来ると、ここは将ににわか合宿所となる。勿論朝から飲んだり食ったり、そして各自が自由に行動する。牧場内を散策し草花を愛でたり動物達と面会したり、あるものはリクライニングの椅子に寝そべりゆっくりと読書、朝からビールを飲んでいるものもある、トラクターの運転も珍しいからとトライするもの、庭も広大だから自動芝刈り機に乗りビールを飲みながら挑戦するもの、ライフルやピストルを撃ったことがないからその経験をしたいもの。。。。。。。何もないところでも探せば決して退屈はしない。

老母もここを訪ねたことがある。彼女はもう4回もアメリカに来ている。「 お前は今迄私に大変な苦労や心配をかけてきた。しかしわが子だから迷惑をかけたと思ったことはない。しかし振り返ってみればその代償として、お前のお陰でこんな遠い異国にまで4回も来れた。私は同年代の年寄り達が経験したことのない多くのものを見、聞き、感じることが出来たことの喜びはこの上ない。」 そう言う老母の話を聞いて、これで良かったんだなとつくずく思う。やがては娘達も妹夫婦や親戚の連中も来るだろう。

楽しみにしみはそればかりではない。幼馴染で初恋のマドンナもそのうちにはやってくることであろう。女房は生前彼女とは会っているし私の初恋の相手であることも知っている。私と女房の間に隠し事はない。その時彼女が私と共に女房のお墓に参ることを女房はとても喜んでくれる筈だ。そして私は今まで歩いてきた自分の堂々たる人生を誇りに思うことであろう。でもやはり一番楽しいのは、日本に住む一人息子が何時の日か生涯の伴侶をここに連れてきて私に紹介してくれることである。そしてその時には天空にいる彼女と共に、是非ともこの牧場の引継ぎの話を彼らにしたいと思っている。その上で私達が苦労をして咲かせたこの大きな大輪の花を枯らさないように維持していって欲しいとお願いしようと思う。

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