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今だ野蛮な国

米国人のストレス、怒り、暴力性、強くならなければならないという強迫観念などが銃と結びついた時ほど、恐ろしいものはない。銃を使っての殺傷事件や事故はもう日常茶飯事で事が起こるたびに、ああ又か、ともう国全体が不感症気味になっていることも事実である。憲法で国民の武装する権利が認められた米国社会では既に2億数千万丁の銃が氾濫し、さらに毎年3百万丁が出回っている。日本の地下組織で行き交う数とは比べ物にならない多さである。驚くなかれ銃の取得は運転免許証を取るより簡単なのである。

銃が無ければ身の安全も自由も民主主義も守れないとの原則論を貫いて、国民の銃所持の権利を認めてきた結果、犯罪者や頭のおかしな人間達の手にも大量の銃が渡ってしまった。銃の問題は国民の生命に直接関ってくるだけに深刻だが、その有効な治療法はいまだに見つかっていない。

日本でも近時、道州制論議が賑やかになって来た。アメリカは50州、そのうち私は45州訪ねているがみな夫々に特徴があり、独自の法律や文化や習慣がある。自治権を与えると言うことは一見まとめることが難しくなりそうだが、お互い切磋琢磨しておらが州を豊かで住みやすい所にしようと競争の原理が働き州民の一体感を醸し出す。アメリカは50の異なった小さな国が集まって出来た国、アメリカ合衆国と言われる所以である。

ニューヨーク近辺からテキサスへ引っ越してくるとやはり全てが違う、全く異なった国に来たようだ。その中でも最も強烈ななカルチャーショックを受けたのは、例の銃の取り扱い規則に関してである。引っ越して暫くしてカウボーイはもとより色々な友達が出来た。そのうちの一人が、その後モウさん達はどうだい、と様子見に寄ってくれた。

話の最中に、野良犬みたいなのが遠くに現れた。いや獲物を物色する様はコヨーテであろう。とっさに彼は言った。「 オイ、兄弟見ていろよ。」 そう言って彼は飲みかけの缶ビールを置きピックアップトラックの荷台を開け、素早く3発の弾丸を散弾銃に装填した。そしてある程度の至近距離になった時、引き金を引いたのである。三連発の凄まじい音がして、コヨーテが一目散に逃げて行くのが眼に入った。彼は 「 撃ち殺すまでもないさ、これで暫くコヨーテ軍団はこの家の近くにはやってこないだろう。」 彼は続けた。「 お前さん、勿論銃は持っているだろうな?」 私はもとより家族全員が射撃が好きで、ニューヨークではクラブに入っていたくらいだから、数丁のライフルとピストルを持っていた。彼は 「 そんなもんじゃ、駄目だ。早速散弾銃を買ってくることを勧めるぜ。」 何故散弾銃なのか? ライフルやピストルは咄嗟の時には中々、的に命中しないからだ。

テキサスにはテキサスの掟がある、郷に入れば郷に従えと言っているようだ。「 この田舎では殆どの連中が、ピックアップトラックの荷台の中に散弾銃と冷えたビールを積んでいるのが普通さ。」 と言ってまた新しい缶ビールを開けて飲み始めた。銃を発砲したわけだからそれを聞いて誰か警察に通報しないのだろうか、酔っ払い運転の連中がウジャウジャいてもポリさんの取り締まりはないんだろうか?いやはや恐ろしいというか野蛮な土地にきてしまったなと一瞬思った。アメリカは広すぎる。ニューヨークでは考えもつかなかった西部開拓時代のいわゆるワイルドウエストがここには現存しているんだなあと感心すると共に何故か身の引き締まる思いがした。

数日後、早速近くの銃砲店へ行き散弾銃を買い求めた。テキサスへ移って来てからどの位になる?と聞かれたので3ヶ月と答えた。「 それじゃまだ売れないよ、最低でも6ヶ月住まなきゃな 」 と言われた。仕方なくついでだからと帰り際店内を見て廻ったが、その時イタリア製のベレッタの立派な散弾銃が眼に入った。私は小さな子供がお気に入りの菓子を見つけたようにうれしくなってそれを手に取った。ずしりと重かったけど何とも言えぬ黒い光沢を放っていた。私はたまらず、「 オヤジ、これ幾らだい?」 「 何ベレッタが欲しいのか?眼の付け所がいいな。1100ドルの上物だ。」 その他の散弾銃は安いのは100ドルから高くても700ドル位だった。

「 お前を気に入った。特別扱いで1000ドル、そして今直ぐに売ってやってもいいぜ。」 「でも6ヶ月住まなきゃ駄目なんだろう?] [いやそれは建前というもので、規則なんかは何とでもなろうってもんよ。」 いずこの商人も現金を積まれたら弱い。商談成立である。まあいい加減であきれて物も言えなかったが、こちらもいい加減な人間だから文句があろう筈はなかった。

かくして、相変わらずいい加減に銃が横行する野蛮な国アメリカの素顔を垣間見た。私も銃規制の賛同者ではあるが、所持の必要性はこの国に住むからには主張したい。小さな国で狭い所を虱潰しに警戒する日本の警察と異なり、こちらは余りにも広すぎて中々手が廻らない。我が家もセキュリティシステムを装置し警察とも繋いでいるが、警報がなってからポリさんが駆けつけるまで30分はかかる。アメリカの賊はまず銃持参で命懸けで侵入して来るから、こちらも命懸けにならざるを得ない。徒手空拳では30分も持つことは無いだろう。愛する者や自分の身は自分で守らねば。。。。いくら奇麗事を並べてみたって、やられる前にやらなければ一巻の終わりである。

どうも発想がブッシュのイラク戦争に似てきたが、戦争のない世界、犯罪のない社会を築く為にはどうも気が遠くなりそうな時間とエネルギーがかかりそうだ。つくずく日本は平和で安全な国だと思う。だったら日本へ帰ればと言われそうだが、私はそれを犠牲にしてまでも、“自由でいい加減なこの国” が好きだしここに青山をみつけたから骨埋むるに何の躊躇もない。

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