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いい涙、流しました

還暦をとっくに過ぎた私には、今迄あまり大量の涙を流したと言う記憶はない。勿論人並みに親父や兄貴、友人知人達の訃報を聞いた時嗚咽はしたが涙の量は少なかった。「男はメソメソするもんじゃない!」と言う幼少の頃からの教えをしっかり身につけてきた所為もある。事ほどさように涙にも色々ある。嬉し涙、悔し涙、悲し涙、辛い涙、感謝の涙。。。。そんな中でもやはり別れの涙と言うのが「涙」の定義としては一番相応しいような気がする。とりわけ連れ合いとの死別は、涙なしでは語れない。

母は幼少の頃の私をとても心配したと時々話してくれる。終戦直後のこととてあちらこちらで傷痍軍人によく出会ったからか私は彼らの姿におののき、「兵隊さんになりたくない、戦争には行きたくない」と泣いたり弱音を吐いたりしたそうである。軍国の母ではなかったが、彼女はとても強い女性だったから、そんな私を見て情けなくなったと共になこんな弱虫ではと私の将来に憂いを感じたこともあり、爾来ことある毎に「強い人間」になることの訓練や教育をされた覚えがある。極端に言えば涙は男の恥、くらい思ったのである。

高校時代から大学時代、所謂人格の形成に一番大事な時に私は自らを意図的にマッチョの世界に置く事で人間的に強くなろうと決意した。逆にその当時の自分は弱い人間であったのでそれを覆い隠そうという目論見もあったのかも知れない。従って身体は小さかったけれど最も男臭いと言われるスポーツとしてのラグビーに4年間没頭した。この時期、精神的にも肉体的にも少しずつ強くなって行く自分に自信を持ち始めた。このマッチョの世界に居たいと言う思いはそれから以後もズッと続いていくわけで、就職は大手建設会社に決めた。そして入社後これまた希望で現場勤務が叶えられ日々多くの労務者達に囲まれた男臭い労働環境に身を置いた。渡米してからはカウボーイになりこれまたマッチョの世界。気がついたらいつの間にか前期高齢者の仲間入りをするような年齢になってしまった。

学生時代はヤクザや侍の映画に心酔した。自分の生来の温和な性格は変えられるものではないが、マッチョの世界に身を置くことで精神面での鍛錬やストイックになることの手法を多く体得することが出来た。私の中には大和魂の代表としての侍の心意気とアメリカ西部の開拓者の象徴であるカウボーイのタフな精神、この両方が脈々として流れていると確信している。どちらも表向き涙とは最も遠い存在であることは自他共に認めるところである。

しかし、このマッチョの姿勢も女房が彼岸に旅立ってからと言うもの脆くも崩れることが多くなった。勿論人前で涙を見せることは極力避けてはいるものの、そうやって表向き強がっているだけに一人になると止め処も無く涙が流れることがよくあった。女房との思い出を手繰る度に、彼女の靴やハンドバッグ等の遺品を見る度に、彼女とよく行った公園やレストランへ行く度に、彼女が飾り付けた調度品等を見る度に。。。。。。気がついたら涙が自然と頬を伝わっていた。「君はどうしてそんなに急いで逝っちゃったんだ?」 「何故私を連れて行ってくれなかったのか?」 「これからゆっくり二人して楽しく老いていこうと話し合っていたのに?」 「君のいないこの世でこれからのに私にどんな生き甲斐を見出せというのか?」そんな思いが交錯するともう涙が止まらなかった。

私は夏川りみの歌う「涙そうそう」と言う歌が好きで暫くはいつも口ずさんでいた。

古いアルバムめぐり ありがとうってつぶやいた
いつもいつも胸の中 励ましてくれる人よ
晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても おもかげ探して よみがえる日は 涙そうそう

一番星に祈る それが私のくせになり
夕暮れに見上げる空 心いっぱいあなた探す
悲しみにも 喜びにも おもうあの笑顔
あなたの場所から私が見えたら きっといつか 会えると信じ 生きてゆく

晴れ渡る日も 雨の日も 浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
さみしくて 恋しくて 君への思い 涙そうそう
会いたくて 会いたくて 君への想い 涙そうそう

今までは涙を流すことは男の恥くらいに思っていた。しかし、ここ数ヶ月の間に女房の為に流した涙は、とても爽やかでいい涙であったと思う。泣くことで鬱積した悲しみが晴れたような気がした。涙を流すことで自分の心が洗われるような気がした。だからこれからも自然に流れてくる涙は無理してまで止めようとは思わない。

でもこれからはそんなこともからも段々解放されていくだろう。「だって泣いたって、喚いたってもう私はそこまで降りて行けないのよ。だったら何故泣くの、泣いてばかりいたらそのうち自分が惨めになるだけじゃないの?!あなたは強い人間、だから私はあなたを夫として選んだのよ、さあ元気をだして前向きに生きて行って!!」 空を見上げる度に彼女がそんなことを言っているような気がしてならないからである。

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